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川上弘美『あるようなないような』から「嫌」 [読書記録・日記]

川上弘美の『あるようなないような』を少しずつ読んでいる。日記的なエッセイということになっているけれど、日記とは思われないようなことが入っていたり、エッセイだから軽く読めるかなと思いきや軽く読めない。

その中の「嫌」というエッセイに、自分が何かに似ている、と言われる話がある。また、「あなたが昨日XXにいたよ」といなかったはずの場所に言われる話。

---(引用)---
 ところで、うすぼんやりとした背景の中で、わたしにとっての自分自身というものは実際にはどのくらいの実在感を持ち得るのか。渋谷にいたらしい「わたし」も浜松にいたらしい「わたし」も蛇に似ているらしい「わたし」も、考えているうちに実際のわたしらしく思われてくる。他人の視界の中の軽軽とした「わたし」と、自身の思う重重としたほんとうのわたしは、境界をなくしそうになる。それはたいそう不吉なことだ。軽軽とした「わたし」それ自体は不吉ではないのに、「わたし」があるはずないとわかったその瞬間から軽軽とした「わたし」は不吉な影として重重としたわたしを覆いに来るのである。
 嫌だ。じつに嫌なことだ。(後略)
---(pp.51-52)----

いろいろなところに現れる「わたし」の話は、田口先生の『現象学という思考』や西郷・田口『〈現実〉とは何か』の話に少しつながって面白い。


あるようなないような (中公文庫)

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  • 作者: 川上 弘美
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2002/10/01
  • メディア: 文庫




現象学という思考: 〈自明なもの〉の知へ (筑摩選書)

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  • 作者: 田口 茂
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/12/11
  • メディア: 単行本




〈現実〉とは何か (筑摩選書)

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  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
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