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RARA Newsletter vol.4のウェブ掲載 [読書記録・日記]

RARA Newsletter vol.4で私の研究についてのインタビューを載せていただきました。
CREST研究について詳し目に話しています。
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RARAアソシエイトフェロー採択とWebページオープン [読書記録・日記]

今年度からRitsumeikan Advanced Research Academy(RARA)のアソシエイトフェローに採択されました。CREST研究を中心に進めます。このページで研究内容をちょっと説明していて、もうすぐより詳しいインタビュー記事も出る予定です。
「研究連携で大切にしていること」に土日祝日夜は休むって書いておきました。倒れがちなので気をつけたいし、そうじゃなくても大事にしたい。
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日本認知科学会第40回大会 [読書記録・日記]

はこだて未来大学で開催された日本認知科学会第40回大会に参加してきました。
学生さんが発表してくれて嬉しかった。今回は私の発表(共著はあるけど)はなくて、そうすると、いまひとつ参加した感じが薄い。やっぱり発表した方が楽しい。

期間中の総会で、昨年度出版した以下の論文に2022年度日本認知科学会奨励論文賞をいただきました。ありがとうございます。異分野対話性を評価してもらえて嬉しかった。
布山美慕, & 西郷甲矢人. (2022). 解釈の不定性の価値と量子認知による文章解釈研究の展望. 認知科学, 29(1), 100-119.

前回は学位授与式と日程が被っていて、着物・袴姿でオンラインで受賞した気がする。それから考えると、5年か。長くてあっという間。

いま事務作業が多すぎて、夏休みなのに一切研究ができていない。嫌すぎて、本棚の整理をしそうになった。これが早く終わりますように。
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不定な文章理解研究について少し [読書記録・日記]

先日、認知科学が他の分野からどう見られるか、もうちょっと広くいうと、どういう関係を持っていくか、というような話をする機会があった。
それで、進めたい不定な文章理解研究に関連して思っていることを書いておこうと思う。

日本の最近の社会では(主語が雑に大きいが)、すぐに決めることやわかることに価値が置かれがちで、不確定なこと、迷うことはネガティブな印象をもたれやすいように感じる。たとえば、VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)は予想しづらくやりづらいという課題のニュアンスが強いと思う。
認知科学や神経科学でも、誤差最小化などに代表される、できるだけ思った通りに値を定めるように動くモデルが多くなっているように思う(曖昧な言い方だし、このモデルも良いけれど。それに揺らぎへの注目も常にあるものの)。
一方で、ウルフが第一次世界大戦中に「未来は暗闇に包まれている。概して、未来は暗闇であることが一番いいのではないかと考える(ソルニット『暗闇のなかの希望』 p.42の訳文より)」と言い、それを受けてソルニットが『暗闇のなかの希望』を書いたように、希望とは不確定な中で私たちが行動できるという場所にある。
私は不確定な文章理解を可能にする人の能力やその効果を見ることで、不確定な中での希望や行動の可能性を見てみたい。その意味で、(必ずしも量子確率に従うかわからないにせよ)多くの不確定な場所や状態とその価値を見ている多分野の研究と繋がり、交わっていきたい。加えて、量子確率に従う状態としては、それはなんでも良い状態ではなく(カオティックな真っ暗闇ではなく)、測る方法・問い方を決めたら確率分布としては定まる状態であって、その意味で数理的な予測や記述ができる(西郷・田口『現実とは何か』など)。この文脈では、数理的な研究や量子情報などと潜在的に関係できる。いずれの場合も、私はすごく勉強しないと議論できないけれど、こつこつ進めていかれたらいいなと思うし、一人でなくても良いかもしれない。
そんな風に思うと、わりといろいろなところに繋がるし、面白いのでは...と思うのでした。

気になった方はこのあたりも読んでみてもらえたら嬉しいです。
Fuyama, M. (2023). Does the coexistence of literal and figurative meanings in metaphor comprehension yield novel meaning?: Empirical testing based on quantum cognition. Frontiers in Psychology, 14, 1146262.
布山美慕, & 西郷甲矢人. (2022). 解釈の不定性の価値と量子認知による文章解釈研究の展望. 認知科学, 29(1), 100-119.


ある作家の日記 新装版

ある作家の日記 新装版

  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: 単行本








〈現実〉とは何か (筑摩選書)

〈現実〉とは何か (筑摩選書)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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最近の発表と本など [読書記録・日記]

前の日曜日から火曜日まで量子認知のワークショップに行って、水曜日から今日(土曜日)まで授業がつまっていて、なんとか終わりました。
ワークショップはすごく楽しかった。そのうち、一部がyoutubeで公開されると思う。私のトークは未公開データを含むので公開しないけれど。
7月は終わりまでぎっしりつまっているので、まだ休めない...。

本は色々読んでいて、ちょっと前には小澤先生の『量子と情報』を読んでいた。文章が美しく、理解が深いのでものすごくわかりやすい。終わりの研究についての捉え方も心を動かされる。
今は夜にソルニットの『暗闇のなかの希望』をちょっとずつ読んでいる。
量子認知の論文とか直接研究に関係するものも読みたいけれど、私の中では繋がっている別分野の論文や本も読みたい。『暗闇のなかの希望』は好きで、英語版も買ってみた。
なかなか休めないけど、本当は、ゆっくり不確実性の中で色々なことをやりたい。

「Hope locates itself in the premises that we don't know what will happen and that in the spaciousness of uncertainty is room to act. (中略) It's the belief that what we do matters even though how and when it matter, who and what it may impact, are not things we can know beforehand. We may not, in fact, know them afterward either, but they matter all the same, and history is full of people whose influence was most powerful after they were gone(p.xii, The Canons edition)」

「希望は、私たちは何が起きるのかを知らないということ、不確かさの広大な領域にこそ行動の余地があるという前提の中にある。不確かさを認識することは、その帰結に影響をもたらせるかもしれないと気がつくことだ。それはあなたが一人でやることかもしれないし、数人、数百万人とおもに行うことかもしれない。希望とは未知や不可知のものを受け容れることであって、確信的な楽観主義や悲観主義とは違う。楽観主義者は、私たちが関与しなくても物事はうまくゆくと考える。悲観主義者はその逆だ。どちらも自分の行動を免除する。希望とは、いつ、どのように意味が生まれ、だれに何にインパクトを与えるのかあらかじめわからないとしても、それでも私たちの為すことに意味があると信じることだ。そんなことは事後になってもわからないかもしれない。しかし、それでも意味があることに変わりはない。歴史には亡くなった後のほうがよほど大きな影響力を発揮した人物がいくらでもいる。(pp.19-20、文庫版)」


量子と情報――量子の実在と不確定性原理

量子と情報――量子の実在と不確定性原理

  • 作者: 小澤正直
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2018/11/10
  • メディア: Kindle版








Hope In The Dark~Rebecca Solnit

Hope In The Dark~Rebecca Solnit

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: ペーパーバック



Kindle版じゃないののリンクが検索で出てこないのがちょっと残念。
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『認知科学』創刊30周年記念特集 [読書記録・日記]

『認知科学』の30周年記念特集号がjstageでオープンになりました。各分野のこれまでとこれからの誌上対談企画やシニア・中堅対談や若手の記事があります。企画・実行・編集に関わらせていただきました。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jcss/30/1/_contents/-char/ja?fbclid=IwAR0rVvjr-jWp-aM92bjuPqehD0JJ3nr4KqjudQRGwWb8F_J1O67eFBfM5IE

鈴木宏昭先生と本田さんの「洞察・推論・意思決定」の誌上対談はこちら。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/30/1/30_2022.071/_article/-char/ja

米田英嗣さんと私の「物語と芸術」の誌上対談はこれ。その他、合計7分野の誌上対談とシニア・中堅の対談、若手記事があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/30/1/30_2022.077/_article/-char/ja

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『オーウェルの薔薇』 [読書記録・日記]

ソルニットの『オーウェルの薔薇』を読み終わった。すごく良かった。訳は、もちろん好みだと思うけど、個人的には『迷うことについて』の方が好きだったかも。こちらの本の方が少し固い感じ?

ソルニットの歩く場面もやっぱり良い。

『ほかの畑には何も植わっておらず、耕されたばかりの青白い白亜層のような鋤道があり、燧石がちりばめられていた。(中略)もの欲しさと好奇心に捕われた私は小路を降りて畑の縁に立ち、石を拾い上げてはいくらかを投げ捨て、またさらに拾い上げては、そのさまざまなかたちと、数えきれないほどの石に囲まれているという感覚でうっとりとなった。(p.148)」

オーウェルは死に瀕して、夢で迷っている(原著の情報がわからないのだけど)。

『彼の最後のノートには、彼が死の夢と呼んだものが語られている。「時には海や海岸の--より頻繁には巨大で壮麗な街路や船、そのなかで私はしばしば道に迷うのだが、いつも幸福感と日なたを歩いているという独特な感情をともなう。疑問の余地なく、これらの建物ほかのすべては死を意味する」(p.315)』

オーウェルの「ガンディーを想う」の引用部分も。これは元のを読んでみたい。孫引きばかりになっていしまうけど。

『「人間であることの本質とは、完全さを求めないことであり、時には信義のために実際に進んで罪を犯そうとすることであり、親しい交遊を不可能にしてしまうほど禁欲主義を推し進めたりしないことであり、個々の他人に対して愛情を注いだ当然の代償として、ついには人生に敗れて破滅する覚悟を持っていることなのだ。確かに酒や煙草等々は聖者が避けねばならない品々であるが、しかし聖者であることもやはり人間が避けねばならないものなのである。......多くの人びとは本心から聖者になりたくないのであるし、おそらく、聖者となるか聖者に憧れる少数の人びとは、人間らしくありたいという気持ちをあまり感じたことがないのだろう」
つまり彼は、みずから進んで苦難に向かうこと、苦難や自他の欠点を進んで受け入れようとする意思を、人間らしさのひとつとして、喜びの代価もふくみ込むものとしてとらえた。(中略)それは不完全で非理想的な美を見る新しい能力なのだ(pp.315-316)」

オーウェルの血筋や薔薇の工場栽培も批判的に見ながら、場所場所でオーウェルの日記を読み、最後に「オーウェル的」という言葉を反転して、帯にある「花の美。喜び。そして抵抗」について書かれていて、とても好き。
変わっていくこと、その瞬間瞬間の喜び、それを凍結して取っておこうするのではなく、また次の瞬間瞬間と感じること、不完全さ、そういうものを美しいと感じることを感じる本だった。ちなみに、戦場のバタートーストの話もとても好きだった(敵方に「バタートーストだぞう!」と叫ぶ話)。

読み始めてすぐに気がついたのだけど、私はオーウェルの『1984』を読んだことがない。『華氏451度』と混ざっていたみたい。買ってみた。というか、オーウェルの本、面白そうだから、他のも読んでみたい。


オーウェルの薔薇

オーウェルの薔薇

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/11/15
  • メディア: 単行本




迷うことについて

迷うことについて

  • 出版社/メーカー: 左右社
  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: 単行本




一九八四年 (ハヤカワepi文庫)

一九八四年 (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/08/01
  • メディア: Kindle版




華氏451度〔新訳版〕

華氏451度〔新訳版〕

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/07/28
  • メディア: Kindle版



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『オーウェルの薔薇』 [読書記録・日記]

年末でばたばたしつつ、なんとか締切系が終わってきた。
ソルニットの新しい本『オーウェルの薔薇』を少しだけ読んだ。

『オーウェルの薔薇』より
「オーウェルの薔薇が問いかけるのはこうだー彼は何者なのか、私たちは何者なのか、そして、正義と真実と人権を尊び、世界をいかに変えるかについて思いを馳せている人--もしかしたらすべての人--の生のどこに、計量可能な実績にはなりえない喜びと美と時間が収まるのか、という問いである。(p.18)」
「They were questions about who he was and who we were and where pleasure and beauty and hours with no quantifiable practical result fit into the life of someone, perhaps of anyone, who also cared about justice and truth and human rights and how to change the world.(英語版のkindleより)」


オーウェルの薔薇

オーウェルの薔薇

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/11/15
  • メディア: 単行本



Orwells Rosen

Orwells Rosen

  • 出版社/メーカー: Rowohlt Verlag GmbH
  • 発売日: 2022/06/14
  • メディア: ハードカバー



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ブックフェア [読書記録・日記]

著者陣や対談に参加した『認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開』と『圏論の地平線』出版に際して、立命館大学生協で認知科学ブックフェアを開催していただいている。

生協ブックフェアのページ

このページにはまだ『圏論の地平線』情報がなく(私が出版直前にポップを送ったので)、ポップを書く時間がなく載っていない推薦書もあるので、推薦図書全部とポップをここに載せてみる。ただし、肝心の上の二冊は、自分の原稿以外は知らない状態で紹介文を書いたので、結構曖昧...。生協の方とのやりとり用の文書からコピペしたので文献情報の形式はいい加減です。
全ての本は立命館の衣笠キャンパスの実店舗で販売中。なお、これ以外に越境する認知科学シリーズと認知科学のススメシリーズも全巻置いていただいています。

刊行される本の紹介文
『認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開』
新しく東京大学出版会から刊行される認知科学講座シリーズの第4巻です。1巻『心と身体』、2巻『心と脳』、3巻『心と社会』をそれぞれテーマとしていますが、第4巻はそれらの分類に収まらない先端的な研究をまとめています。私(専門は認知科学)は数学者と共著で数学の一分野である「圏論」を用いた認知科学研究について書いています。それ以外にも、近年注目されている自由エネルギー原理や、本学の谷口先生による記号創発ロボティクスの章もあります。認知科学としてやや高度な内容も含まれる一冊ですが、新しい展開を味見するのに楽しい一冊です。1~3巻と合わせてぜひ手に取ってご覧ください。認知科学にはちょっと興味があるけれど、この本から読むのは難しそう…という方はおすすめしている他の本から先に読まれると良いと思います。

『圏論の地平線』
「しかし、もし対象を他の対象との「関係性」の総体において捉えるのが圏論の精神であるというのなら、他の諸分野との関係性を通じて圏論を「圏論的に」語ろうとする本があってもよいのではないか(「まえがき」より)」という冒険的なアイディアから生まれた対談本。計算機科学、認知科学、意識研究、複雑系、物理・工学、哲学、数学など多様な分野の研究者が圏論に詳しい数学者である西郷さんと対談しています。といっても、圏論のことばかり話しているのではなく、少なくとも認知科学分野の対談では好き勝手自分の研究や大学教育への文句などを話しており、研究者がカジュアルに話す様子や普段何を考えているのかを知ることができます(私は認知科学分野の対談に参加しています)。専門的な圏論の部分はわからなくても、きっと楽しむことができる一冊だと思います。なお、どの章からでも読むことができます。


認知科学および出版書籍に関連する布山からのおすすめ本
1. 鈴木宏昭(2022)『私たちはどう学んでいるのか—創発から見る認知の変化』筑摩書房
認知科学の知見から思考力、知識、上達、発達、ひらめき、教育について書かれた本です。本書は特に、揺らぎや動的な状況が学びに本質的である点に注目して書かれており、現在の教育のあり方についても批判的に論じています。著者の多くの面白い実験についても書かれており、読みやすく、また考えさせられる本です。各章の最初にまとめが書かれているので、良ければ手にとってその部分だけでも読んでみてください。教育に興味がある学生さんにぜひ読んでいただきたいです。

2. 鈴木宏昭(2020)『認知バイアス—心に潜むふしぎな働き』講談社
1と同じ著者によって書かれた認知バイアスの本です。認知バイアスとは、主に無意識に行う非論理的な思考のことを指し、限られた認知資源で実際の問題を解くためのヒューリスティックです。必ずしもバイアスが悪いわけではないのですが、非合理的な意思決定や社会的ステレオタイプ・偏見の助長など悪い点もあります。自分自身の持っている認知バイアスを自覚することで、より広い視野で物事を捉えるきっかけをつくれます。近年多くの会社でも認知バイアスに様々な観点から注目しているようです。

3. 今井むつみ(2010)『ことばと思考』岩波書店
日本語母語話者が多い日本では虹は7色で表現しますが、5色で表現する言語もあります。また、基本的な色の名前が2色しかない言語もあります。では、虹を5色で表現する言語の母語話者は虹が5色に見えるのでしょうか?基本的な色の名前が2色しかない言語の母語話者は世界が2色で見えているのでしょうか?これらは哲学・文化人類学の分野の問題でもありますが、認知科学の実験によって実証的に検証されてきました(ちなみに色の名前が多い言語の話者ほど、逆に色の認識が歪むことが知られています)。本書はこういったことばと思考の関係について、多くの興味深い実証的知見をもとに考える本です。言語や概念に興味のある学生さんにぜひ読んでいただきたいです。

4. メアリアン・ウルフ(2020)『デジタルで読む脳 x 紙の本で読む脳』インターシフト
私は文章理解を一つの研究テーマの軸にしています。近年SNSの発達で短い文章を素早くやりとりする機会が多くなったように思います。ではそういった素早い文章の理解とゆっくり紙の本で小説を読むのにはどういった違いがあるのでしょうか。現代社会においては早く理解することばかりが重要視されますが、実は集中して「ゆっくり」読むからこそできる理解もあるとされます。一方で、電子ならではの長所も併論されています。著者は認知神経科学・発達心理学の研究者で、多くの研究知見も盛り込まれていますが、とても読みやすい、親しみやすい一冊です。

5. 犬塚美輪(2020)『生きる力を身につける 14歳からの読解力教室』笠間書房
「読解力」は身につけるべき能力として近年も重視されています。では何ができたら「読解力」が身についたと言えるのでしょうか?文章を理解することは、文章を構成する文や単語それぞれを理解することとどう違うのでしょうか?漫画の理解と文章の理解は何が違うのでしょうか?本書は文章理解の基礎的な知見について対話形式で書かれた入門書です。難しいテーマなので諸説ある部分もありますが、文章理解研究の最初の一歩として読みやすいと思います。

6. 嶋田総太郎(2019)『脳のなかの自己と他者』共立出版
本書は「越境する認知科学」シリーズの最初の一冊です。「越境する認知科学」はファンカルチャーといった一見カジュアルなテーマから、創造性や人工知能など多くの注目テーマについて刊行されているシリーズです。本書は自己と他者について私たちがどのように認知するのか、神経科学の知見を主として、哲学の観点も入れながら論じています。私たちはどうして「この」腕が私の腕だと思うのでしょうか。なぜこの腕を動かしたのは私だと思うのでしょうか。なぜ他者は自分ではないのでしょうか。自分ではない他者にどうして共感できるのでしょうか。これらの当たり前だと思うことは実はまったく自明なことではありません。実際、脳の障害によって自分の腕が他者の腕だと感じたり、他者に動かされていると感じることもあります。本書はやや専門的で難しい部分もありますが、認知モデルの考え方も学べ、非常に面白く勉強になると思います。個人的にもとても好きな本です。

7. アントニオ・R・ダマシオ(2010)『デカルトの誤り』筑摩書房
感情とはなんでしょうか。感情と理性は対立するものでしょうか。感情と身体はどういった関係にあるのでしょうか。本書の原著は1994年に刊行されており、古い本ですが、感情と理性、身体の関係の研究が進むきっかけとなった一冊で、いまでも読む価値があると思います(なお本書の説に一部否定的な知見も出ています)。ダマシオは感情が合理的な判断、つまり理性の屋台骨の一つであり、かつ身体の状態が感情の一つの基盤である可能性を指摘します。感情や合理性に興味のある方はぜひ手にとってみてください。

8. 服部雅史・小島治幸・北神慎司(2015)『基礎から学ぶ認知心理学 人間の認識の不思議』有斐閣
認知科学は学際的かつ扱うテーマが広いため、一冊で全体像がわかる入門書はなかなかありません。本書は認知科学のテーマの中から主なものを中心に1章1テーマで10章にわたって、面白い具体例や読者が考える課題も盛り込みながら書かれています。それぞれのテーマについてより詳しく学びたい場合の推薦書も載っており、教科書としても使える一冊だと感じています。認知科学全体を一冊で見てみたい人におすすめです(ただし漏れているテーマもあるので、その場合は「認知科学講座」「越境する認知科学」「認知科学のススメ」シリーズから気になるテーマの本を読んでみてください)。

9. ルトガー・ブレグマン『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章』
人の本性は悪なのでしょうか。善なのでしょうか。もちろん状況次第なわけですが、これまで心理学の有名な実験はどちらかというと人間が“悪”に転びがちなことを報告してきました。たとえば、スタンフォードの監獄実験、ミルグラムの電気ショック実験など映画や有名な映像に残る実験が多くあります。本書はこういった性悪説に与する知見を再検討し、多くの欺瞞をあばき、むしろ「ほとんどの人は、本質的にかなり善良だ(p.21)」ということを主張します。皆さんは利己的で自分のことしか考えない生物が進化で生き残った「人間」だと思うでしょうか。あるいは「ほとんどの人は、本質的にかなり善良だ」と言う人はお気楽な人だと思うでしょうか。そう思われた方はぜひ読んでみてください。本書は、むしろ「本質的にかなり善良だ」ということを受け入れる勇気が世界を善くすると主張します。きっと新しい見方を得られると思います。

10. ドナルド・ホフマン(2020)『世界はありのままに見ることができない—なぜ進化は私たちを真実から遠ざけたのか』青土社
いま何が見えますか?三次元の世界が目前に広がっていて、棚に本やポップが見えるでしょうか。この本は、そういった“現実”がディスプレイ上のアイコンと同じ程度にしか“現実”でないことを主張します。あなたは目の前の本を取ることができ、コンビニで買ったお菓子を食べることもできます。しかし、それらはファイルのアイコンをディスプレイのゴミ箱アイコンに捨てたり、ダブルクリックして開くことと同じことだとホフマンは言います。そして、もしそうだとしても、あるいはそれだからこそ、私たちは生き延びてきたとします。そうだとしたら私たちは(あるとすれば)“ものそのもの”や“実在”を知ることができるでしょうか?本書は実証的な知見に基づきながらこういった世界や実在について議論します。マーケティングや美しさといった身近なテーマの知見もあり、面白い一冊です。

11. カルロ・ロヴェッリ(2021)『世界は関係でできている:美しくも過激な量子論』NHK出版
この一冊も“実在”のあり方について議論する一冊です。前半は量子物理について論じ、後半でより広いテーマを議論しています。量子物理では、物理的な対象、たとえば電子が、粒子でもあり波でもあり、かつ粒子でもなく波でもないといったような、私たちの直感的な実在のあり方とはかけ離れた特徴を持ちます。著者は、量子物理の示す意味を検討することで、あらゆる物理量(たとえ古典的な質量や速さであっても)はあるものと他のものとの関係で決まる(あるいは関係そのもの)と解釈します。このように“実在”が“関係”であると考え論を進めるのが本書です。量子物理の部分は、正確に理解するには量子論をある程度勉強しなくてはいけませんが、一般書として事前知識がなくてもある程度理解できるように読みやすく書かれています。実在のあり方に興味がある方はホフマン(2020)と共に読まれると新しい観点が得られると思います。

12. レベッカ・ソルニット(2019)『迷うことについて』左右社
哲学者メノンの「それがどんなものであるかまったく知らないものを、どうやって探究しようというのでしょうか」という問いに対して、迷うことや不確定性にとどまることを提示しオムニバス形式で進む本書。私の研究テーマの一つである不確定性を積極的に捉えるとても美しい本です(表紙も中表紙もとても綺麗なのでぜひ開いてください)。本書はいわゆる認知科学や数学分野の本ではありませんが、鈴木(2022)のゆらぎの価値やウルフ(2020)のゆっくり読むことの価値に通じる本だと感じています。

13. 西郷甲矢人・能見十三(2019)『圏論の道案内』技術評論社
『認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開』で私たちが取りあげた「圏論」にもし興味を持たれたら、入門書としてはこの一冊が良いと思います。数学は難しいと思われるかもしれませんが(実際、私も難しいですが)、新しい見方を手に入れるのに数学ほど良い分野もないかもしれません。数学は計算すると思っていませんか?圏論のこの教科書ではいわゆる計算は全く出てきません。代わりに矢印ばかりが出てきます。すべてを矢印で表そうというのが圏論の思想(らしい)です(言い過ぎかもしれませんが)。ロヴェッリ『世界は関係でできている:美しくも過激な量子論』とも通じる部分があります。なぜかというと、矢印は関係性だからです。矢印だけでどこまで表現できるのか?さらさら読むのではなくゆっくり考えながら思考する本ですが、一緒に考えてみませんか。

ポップ未作成(一部リクエストするも品切れ)
1. ウンベルト・エーコ(2002)『開かれた作品』青土社 品切れ
2. W・イーザー(1982)『行為としての読書』岩波書店(新装版でも)
3. ヴァージニア・ウルフ(2015)『自分ひとりの部屋』平凡社
4. レベッカ・ソルニット(2020)『【定本】災害ユートピア』亜紀書房
5. 渡辺正峰(2017)『脳の意識 機械の意識』中央公論新社
6. クリストフ・コッホ(2014)『意識をめぐる冒険』岩波書店
7. 谷口忠大(2014)『記号創発ロボティクス 知能のメカニズム入門』講談社 品切れ
8. 安西祐一郎(2011)『心と脳―認知科学入門』岩波書店
9. 安西祐一郎(1985)『問題解決の心理学』中央公論新社
10. マイケル・ポランニー(2003)『暗黙知の次元』筑摩書房
11. C.M.ビショップ(2012)『パターン認識と機械学習 上』/『パターン認識と機械学習 下』丸善出版
12. 西郷甲矢人・田口茂(2019)『〈現実〉とは何か』筑摩書房
13. 橋本治(2018)『負けない力』朝日新聞出版
14. アルベルト・マングェル(1999)『読書の歴史 あるいは読者の歴史』柏書房
15. ロジェ・シャルティエ&グリエルモ・カヴァッロ(2000)『読むことの歴史 ヨーロッパ読書史』大修館書店 品切れ
16. 永嶺重敏(2004)『〈読書国民〉の誕生』日本エディタースクール出版部 品切れ
17. 谷口忠大(2020)『イラストで学ぶ人工知能概論』講談社
18. 高橋英之(2022)『人に優しいロボットのデザイン』福村出版
19. メアリアン・ウルフ(2008)『プルーストとイカ』インターシフト
20. チャールズ・ファーニハフ(2022)『おしゃべりな脳の研究』みすず書房
21. 川上弘美(2009)『真鶴』文藝春秋
22. 小川洋子(2011)『猫を抱いて象と泳ぐ』文藝春秋
23. テッド・チャン(2003)『あなたの人生の物語』早川書房
24. 向後千春・富永敦子(2007)『統計学がわかる』技術評論社
25. 向後千春・富永敦子(2009)『統計学がわかる 回帰分析・因子分析編』技術評論社
26. ジャック・ランシエンール(2019)『無知な教師〈新装版〉:知性の解放について』法政大学出版局 品切れ






認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開

認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開

  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 2022/09/20
  • メディア: 単行本




圏論の地平線

圏論の地平線

  • 作者: 西郷 甲矢人
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2022/11/16
  • メディア: Kindle版





私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書)

私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 鈴木宏昭
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2022/06/17
  • メディア: Kindle版




認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス)

認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス)

  • 作者: 鈴木 宏昭
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/10/22
  • メディア: 新書





ことばと思考 (岩波新書)

ことばと思考 (岩波新書)

  • 作者: 今井 むつみ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/10/21
  • メディア: 新書




デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳 :「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる

デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳 :「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる

  • 出版社/メーカー: インターシフト (合同出版)
  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 単行本




14歳からの読解力教室: 生きる力を身につける

14歳からの読解力教室: 生きる力を身につける

  • 作者: 美輪, 犬塚
  • 出版社/メーカー: 笠間書院
  • 発売日: 2020/03/31
  • メディア: 単行本




脳のなかの自己と他者: 身体性・社会性の認知脳科学と哲学 (越境する認知科学)

脳のなかの自己と他者: 身体性・社会性の認知脳科学と哲学 (越境する認知科学)

  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2019/09/07
  • メディア: 単行本




デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳 (ちくま学芸文庫)

デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳 (ちくま学芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/07/07
  • メディア: 文庫





基礎から学ぶ認知心理学 -- 人間の認識の不思議 (有斐閣ストゥディア)

基礎から学ぶ認知心理学 -- 人間の認識の不思議 (有斐閣ストゥディア)

  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2015/09/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章 (文春e-book)

Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章 (文春e-book)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/07/27
  • メディア: Kindle版





世界はありのままに見ることができない なぜ進化は私たちを真実から遠ざけたのか

世界はありのままに見ることができない なぜ進化は私たちを真実から遠ざけたのか

  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2020/09/24
  • メディア: Kindle版




世界は「関係」でできている: 美しくも過激な量子論

世界は「関係」でできている: 美しくも過激な量子論

  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2021/10/29
  • メディア: 単行本




迷うことについて

迷うことについて

  • 出版社/メーカー: 左右社
  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: 単行本




圏論の道案内 ~矢印でえがく数学の世界~ 数学への招待

圏論の道案内 ~矢印でえがく数学の世界~ 数学への招待

  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: Kindle版



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『圏論の地平線』 [読書記録・日記]

共同研究者の西郷甲矢人さんが各分野の人と対談した『圏論の地平線』が技術評論社から11/19に出版されます。(カバー画像をもらいました)

私も認知科学枠で少し話しています。研究の履歴や圏論との出会いを全員が話していて(はず)、私は大学のとき「関係性なんていらないって言ったら西郷君に間違ってるって言われた」というような話をしています。
それから幾星霜、先日の『認知科学講座4』では「どのような認知も様々な他の認知との関係性を持つ」と書き出しています。
大学の頃は、誰もいない空間で浮かんでいるイメージがあって、それが好きだったので、関係性なんていらないと言ったのですが、うーんでも、そのイメージは「それがいい」とは言い切れなくなる程度に成長したものの、まだある感じがしています。

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圏論の地平線

圏論の地平線

  • 作者: 西郷 甲矢人
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2022/11/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開

認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開

  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 2022/09/20
  • メディア: 単行本



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