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『オーウェルの薔薇』 [読書記録・日記]

ソルニットの『オーウェルの薔薇』を読み終わった。すごく良かった。訳は、もちろん好みだと思うけど、個人的には『迷うことについて』の方が好きだったかも。こちらの本の方が少し固い感じ?

ソルニットの歩く場面もやっぱり良い。

『ほかの畑には何も植わっておらず、耕されたばかりの青白い白亜層のような鋤道があり、燧石がちりばめられていた。(中略)もの欲しさと好奇心に捕われた私は小路を降りて畑の縁に立ち、石を拾い上げてはいくらかを投げ捨て、またさらに拾い上げては、そのさまざまなかたちと、数えきれないほどの石に囲まれているという感覚でうっとりとなった。(p.148)」

オーウェルは死に瀕して、夢で迷っている(原著の情報がわからないのだけど)。

『彼の最後のノートには、彼が死の夢と呼んだものが語られている。「時には海や海岸の--より頻繁には巨大で壮麗な街路や船、そのなかで私はしばしば道に迷うのだが、いつも幸福感と日なたを歩いているという独特な感情をともなう。疑問の余地なく、これらの建物ほかのすべては死を意味する」(p.315)』

オーウェルの「ガンディーを想う」の引用部分も。これは元のを読んでみたい。孫引きばかりになっていしまうけど。

『「人間であることの本質とは、完全さを求めないことであり、時には信義のために実際に進んで罪を犯そうとすることであり、親しい交遊を不可能にしてしまうほど禁欲主義を推し進めたりしないことであり、個々の他人に対して愛情を注いだ当然の代償として、ついには人生に敗れて破滅する覚悟を持っていることなのだ。確かに酒や煙草等々は聖者が避けねばならない品々であるが、しかし聖者であることもやはり人間が避けねばならないものなのである。......多くの人びとは本心から聖者になりたくないのであるし、おそらく、聖者となるか聖者に憧れる少数の人びとは、人間らしくありたいという気持ちをあまり感じたことがないのだろう」
つまり彼は、みずから進んで苦難に向かうこと、苦難や自他の欠点を進んで受け入れようとする意思を、人間らしさのひとつとして、喜びの代価もふくみ込むものとしてとらえた。(中略)それは不完全で非理想的な美を見る新しい能力なのだ(pp.315-316)」

オーウェルの血筋や薔薇の工場栽培も批判的に見ながら、場所場所でオーウェルの日記を読み、最後に「オーウェル的」という言葉を反転して、帯にある「花の美。喜び。そして抵抗」について書かれていて、とても好き。
変わっていくこと、その瞬間瞬間の喜び、それを凍結して取っておこうするのではなく、また次の瞬間瞬間と感じること、不完全さ、そういうものを美しいと感じることを感じる本だった。ちなみに、戦場のバタートーストの話もとても好きだった(敵方に「バタートーストだぞう!」と叫ぶ話)。

読み始めてすぐに気がついたのだけど、私はオーウェルの『1984』を読んだことがない。『華氏451度』と混ざっていたみたい。買ってみた。というか、オーウェルの本、面白そうだから、他のも読んでみたい。


オーウェルの薔薇

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  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/11/15
  • メディア: 単行本




迷うことについて

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一九八四年 (ハヤカワepi文庫)

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華氏451度〔新訳版〕

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