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不定な文章理解研究について少し [読書記録・日記]

先日、認知科学が他の分野からどう見られるか、もうちょっと広くいうと、どういう関係を持っていくか、というような話をする機会があった。
それで、進めたい不定な文章理解研究に関連して思っていることを書いておこうと思う。

日本の最近の社会では(主語が雑に大きいが)、すぐに決めることやわかることに価値が置かれがちで、不確定なこと、迷うことはネガティブな印象をもたれやすいように感じる。たとえば、VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)は予想しづらくやりづらいという課題のニュアンスが強いと思う。
認知科学や神経科学でも、誤差最小化などに代表される、できるだけ思った通りに値を定めるように動くモデルが多くなっているように思う(曖昧な言い方だし、このモデルも良いけれど。それに揺らぎへの注目も常にあるものの)。
一方で、ウルフが第一次世界大戦中に「未来は暗闇に包まれている。概して、未来は暗闇であることが一番いいのではないかと考える(ソルニット『暗闇のなかの希望』 p.42の訳文より)」と言い、それを受けてソルニットが『暗闇のなかの希望』を書いたように、希望とは不確定な中で私たちが行動できるという場所にある。
私は不確定な文章理解を可能にする人の能力やその効果を見ることで、不確定な中での希望や行動の可能性を見てみたい。その意味で、(必ずしも量子確率に従うかわからないにせよ)多くの不確定な場所や状態とその価値を見ている多分野の研究と繋がり、交わっていきたい。加えて、量子確率に従う状態としては、それはなんでも良い状態ではなく(カオティックな真っ暗闇ではなく)、測る方法・問い方を決めたら確率分布としては定まる状態であって、その意味で数理的な予測や記述ができる(西郷・田口『現実とは何か』など)。この文脈では、数理的な研究や量子情報などと潜在的に関係できる。いずれの場合も、私はすごく勉強しないと議論できないけれど、こつこつ進めていかれたらいいなと思うし、一人でなくても良いかもしれない。
そんな風に思うと、わりといろいろなところに繋がるし、面白いのでは...と思うのでした。

気になった方はこのあたりも読んでみてもらえたら嬉しいです。
Fuyama, M. (2023). Does the coexistence of literal and figurative meanings in metaphor comprehension yield novel meaning?: Empirical testing based on quantum cognition. Frontiers in Psychology, 14, 1146262.
布山美慕, & 西郷甲矢人. (2022). 解釈の不定性の価値と量子認知による文章解釈研究の展望. 認知科学, 29(1), 100-119.


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最近の発表と本など [読書記録・日記]

前の日曜日から火曜日まで量子認知のワークショップに行って、水曜日から今日(土曜日)まで授業がつまっていて、なんとか終わりました。
ワークショップはすごく楽しかった。そのうち、一部がyoutubeで公開されると思う。私のトークは未公開データを含むので公開しないけれど。
7月は終わりまでぎっしりつまっているので、まだ休めない...。

本は色々読んでいて、ちょっと前には小澤先生の『量子と情報』を読んでいた。文章が美しく、理解が深いのでものすごくわかりやすい。終わりの研究についての捉え方も心を動かされる。
今は夜にソルニットの『暗闇のなかの希望』をちょっとずつ読んでいる。
量子認知の論文とか直接研究に関係するものも読みたいけれど、私の中では繋がっている別分野の論文や本も読みたい。『暗闇のなかの希望』は好きで、英語版も買ってみた。
なかなか休めないけど、本当は、ゆっくり不確実性の中で色々なことをやりたい。

「Hope locates itself in the premises that we don't know what will happen and that in the spaciousness of uncertainty is room to act. (中略) It's the belief that what we do matters even though how and when it matter, who and what it may impact, are not things we can know beforehand. We may not, in fact, know them afterward either, but they matter all the same, and history is full of people whose influence was most powerful after they were gone(p.xii, The Canons edition)」

「希望は、私たちは何が起きるのかを知らないということ、不確かさの広大な領域にこそ行動の余地があるという前提の中にある。不確かさを認識することは、その帰結に影響をもたらせるかもしれないと気がつくことだ。それはあなたが一人でやることかもしれないし、数人、数百万人とおもに行うことかもしれない。希望とは未知や不可知のものを受け容れることであって、確信的な楽観主義や悲観主義とは違う。楽観主義者は、私たちが関与しなくても物事はうまくゆくと考える。悲観主義者はその逆だ。どちらも自分の行動を免除する。希望とは、いつ、どのように意味が生まれ、だれに何にインパクトを与えるのかあらかじめわからないとしても、それでも私たちの為すことに意味があると信じることだ。そんなことは事後になってもわからないかもしれない。しかし、それでも意味があることに変わりはない。歴史には亡くなった後のほうがよほど大きな影響力を発揮した人物がいくらでもいる。(pp.19-20、文庫版)」


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Kindle版じゃないののリンクが検索で出てこないのがちょっと残念。
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