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研究内容 [研究テーマ]

(2021年3月30日:追記 内容が古くなってきたので、来月中に更新予定です。移転は当面時間的に厳しいかも...)

私の研究テーマとこれまでに行なった研究の概要です。一部現在進行中のものを含みます。
(ブログでは図が綺麗に出ないため移転も兼ねて検討中です。)

<<研究のテーマ:物語世界を創造する読書による人の変容過程の解明>>
[研究の興味]
小説の読書に熱中し、その物語の世界にすっかり浸った経験はないでしょうか?
また、架空の世界の話にもかかわらず、物語の読書によって現実世界の見方まで変わったことはないでしょうか?
反対に、現実世界の自分が年齢を重ねて様々な経験をすることで、同じ本を読んでも違うように感じることは?
私はこのような、物語世界への熱中や、人の現実世界の理解と物語世界の理解の循環的な変化に興味があります。
これらの興味に基づき、物語読書による読者の自己変容の解明を大きな研究目的としています。

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[読書行為の特徴]
私たち人間は「いまここ」とは違う世界を仮想することができます。
空想や夢もこういった仮想の一種と考えられ、読書もこの仮想する行為の一例とみなすことができます。
特に、読書は、五感に現実世界に類似したリッチな刺激を入力するメディアであるバーチャルリアリティとは異なり、読者が白と黒の染みのような記号(=文字)を見るだけで、豊かな世界を内的に創造する行為です。
そして、このような仮想的な物語世界の創造と体験によって、現実世界の見方すら変わることがあるとされます。

たとえば、仮想的な世界の創造と体験による人の変化は、古くはアリストテレスの悲劇におけるカタルシスに認められ、読書行為においても文学理論や記号論におけるリクールやエーコによって指摘されています。
近年では、読書による他者理解の促進や読書への熱中による信念変化や自己認識の変化など、認知科学や心理学の分野でも多くの報告がなされています(Kidd & Castano, 2013; Green & Brock, 2000など)。
文字だけを入力情報として物語世界を仮想し、その仮想によって人生が大きく変わってしまう、そのように私たちの生に大きな影響力を持ちうる読書の認知を実証的に明らかにしたいと考えています。

<<これまでの研究>>
[読者の熱中状態の一貫性の検証]

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私は、こういった読者の変容の解明の一歩として、読者の熱中状態の一貫性の検証と、熱中状態の記述方法の構築、熱中状態の特徴づけを行ってきました。
熱中状態は、信念変化や自己認識をはじめとして様々な読者の変化を促進するとされ(Green & Brock, 2000など)、物語理解自体も促すことが指摘されています。そのため、読者の熱中状態について調べることで、物語理解による読者の変容の機序解明のいったんにつながると期待できます。
先行研究では、この読者の熱中状態について、質問紙調査などで読者の報告を分析し、特徴づけや分類を行なってきました。
しかし、熱中時はまさに「我を忘れている」ため、その際の状態に対する報告の信頼性には疑問があります(「私はこのように我を忘れていた」という報告は我を忘れていなかったことを示唆するので矛盾します)。
そのため、これまでに報告されてきた「読者の熱中状態」がそもそも何らかの一貫性をもつ状態として同定可能かも明らかではないと考えられます。つまり、「あなたの熱中状態」と「私の今の熱中状態」と「私の過去の熱中状態」等が言語報告以上の意味で「同じ」状態と言えるのかわからないのです。

そこで、私たちは、読者の熱中状態の一貫性の検討を、読者の報告に加えて、身体状態(心拍数や姿勢・動作、加速度)と読解時間などの複数指標の時間的な相関を根拠に行いました。たとえば、「熱中した感覚(報告データ)があるときに心拍数が特定の傾向にある」などの関係性があれば、単に「熱中した感じがする」という以上の一貫性を持つ状態と見なせると考えたのです(図2)。

これまでの研究結果から、熱中度報告と心拍数・読解時間・発話プロトコルデータの間に一貫した関係性が示唆されました(研究業績参照、主なものとして、布山 & 日高,2016Fuyama & Hidaka, 2017 など)。
本研究は主に北陸先端科学技術大学院大学の日高准教授との共同研究によってなされました。本研究の成果によって、2016年度日本認知科学会奨励論文賞、玉川大学脳科学研究所奨励賞、第5会知識共創フォーラム共創賞・萌芽研究賞、第28回人工知能学会全国大会大会優秀賞を受賞しました。


<心拍数と主観的な熱中度の時間相関>
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実験から、市販の長編小説を読む際の心拍数(心拍変動係数とフラクタル次元)が主観的な熱中度と時間ずれなく有意に相関することが示唆されました。心拍数の変化は自律神経の働きの変化と解釈でき、熱中状態は交感神経系有意な状態であることが示唆されています。(詳細は布山 & 日高,2016参照)


<読解時間から推定した読解処理の変化と主観的な熱中度の相関>
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市販の小説を読む際の2ページごとの読解時間の分析から、小説を読む際には2つの質的に異なる読解処理が実行されていることが示唆されました(グラフ上段、横軸はページ数、縦軸が2つの処理のうちどちらの処理を行っているかを示す)。この読解処理の変化と主観的な熱中度の時間変化(グラフ下段)には有意な相関があり、熱中状態は特定の読解処理を伴う可能性が示唆されました。作品内容と照らし合わせると、2つの読解処理は作品の予測可能性に対応する可能性があり、予測可能性が高い際の読解処理が高い熱中度に対応することが示唆されています。


<<その他の進行中の研究>>
現在、身体感覚の読書による変化と比喩理解の理論構築の研究も行っています。ここでは後者を紹介します(前者も研究発表し次第追加する予定です)

[比喩理解の理論構築]
物語を理解するとき、私たちは様々なイメージを新たに生み出し組み合わせ、物語世界を創造していきます。
こういった言語による新規なイメージや意味の創造の基礎的な一つの対象として「比喩理解」があると私は考えています。
たとえば、「愛は飲み水だ」という新規比喩の意味を理解するには、「愛」と「飲み水」の様々な意味やイメージを喚起し、両者の「良い」関係性を探索し納得できるかたちで対応させる必要があります。
これまでも多くの比喩理解の理論が提案されていますが、私たちは新規比喩の理解過程に注目した新しい理論の提案を目指しています。
この比喩理論の構築によって、いかに私たちが現実とは異なる、しかしリアリティのある世界を言語から構築していくのか、より精緻な物語理解の理論化が可能になると期待しています(関連業績:日本認知科学会第34回大会オーガナイズド・セッション「同じさの諸相:認知科学・数学・哲学からの示唆」)。
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コメント 1

みな子

心和むイラストがあると、文章を読もうとする吸引力が増すものですね。イラストは「既製品」かしら…

最近編み物をしているので、編み物や織物をしている時の「忘我」と引比べて読んでしまいました。
編み物の熱中状態の時も出来上がりや贈る相手(自分)が完成品を纏った時のイメージを紡ぎながら手を動かしているのかもしれない。

脱線コメントでごめんなさい〜
by みな子 (2017-11-25 08:52) 

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