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アガサ・クリスティ『春にして君を離れ』 [読書記録・日記]

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「わたしがこれまで誰についても真相を知らずにすごしてきたのは、こうあってほしいと思うようなことを信じて、真実に直面する苦しみを避ける方が、ずっと楽だったからだ」
「しかし聖人の多くはね、ジョーン、情熱も持ちあわせているよ。肉体というものを備えていないのも同様な、霊的な人間とはわけが違う」
--------kindleで読んだので引用ページ不明------------

アガサ・クリスティの『春にして君を離れ』を読んだ。
クリスティを読むのは本当に久しぶりだったけれど、展開と人間の描写がとても面白かった。

“道徳的・良識的に考えて、当然こうすべきだ”(たとえば、もうからない農夫よりも弁護士になるのが当然だ、子供は良い学校に行かせるのが当然だ、不倫は愚かで汚らわしい)、といったような所謂“良識”で固めた女性(“妻”で“母”)ジョーンが列車の足止めで一人内省を重ねるうちに色々なことが明らかになり...という話。
探偵小説ではないけれど、ミステリー的。


少しだけネタバレすると、彼女以外の夫・子供たち・周囲の人々は様々な情熱を持って生きているが、彼女はそれを自分のエゴのために大義名分をかざして取り合わずに否定していく(それも良いことをしたと思って)。それに都合が良いように現状認識もとても歪んでいる。彼女と他の人との違いは、自分の欲望でそうしているのだと気が付いている程度。
前半で、彼女以外のほぼ全ての人が不倫してるのが、それがイギリスでの情熱のメインなのかと思わされて面白い(笑)後半になると、ほんとにやなやつだった主人公がだんだんと可哀想に思えてくる(“現実”は何も変わっていないのに彼女はどんどん不幸になる)。

クリスティは大学の頃までしか読んでおらず、そのときはwhoやhowばかり考えていたけれど、いま読んだら人間模様がとても面白そう。また読んでみたいな。

P.S.
あとこの本の素晴らしいのは、『Absent in the Spring』っていう原題を『春にして君を離れ』って訳したこと。美しい。「君」が誰かっていうのも、語感も。


春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ・クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/04/16
  • メディア: 文庫


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