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七日目 プルースト『失われた時を求めて』 [読書記録・日記]

七日目はプルーストの『失われた時を求めて』。

----(引用)----
生垣のあいだから庭園のなかの小径が見え、その縁にはジャスミンや、バンジーや、バーベナが植えられ、そのあいだにストックが真新しい巾着状の花を開いているが、その花の香しい色褪せたバラ色はコルドバの古びた皮革を思わせる。砂利のうえには緑色に塗装したスプリンクラーの長い管が張りめぐらされ、ところどころに開けられた穴から、花の香りを湿らせつつ花の上方に扇型に吹きあげる水滴の霧は、プリズムのように多彩な色に輝いている。と、突然、私は足を止め、もはや身動きできなくなった。それはある光景がわれわれのまなざしに到来しただけでなく、はるかに深い知覚作用を求め、われわれの全存在を意のままにしたときにおこる現象である。赤みをおびたブロンドの髪の少女が、散歩から戻ったところといった風情で、園芸用のスコップを手に、バラ色のそばかすの顔をあげ、じっと私たちを見つめていた。黒い目が輝いていたが、そのときも以降も私は、強烈な印象を客観的構成要素にわける術を知らず、また人のいう「観察眼」を十分に備えていなくて目の色という概念だけをとり出すことができず、長いあいだ少女のことを考えるたびに、髪がブロンドだから、その目の輝きの想い出はただちに鮮やかな青としてあらわれた。そんなわけで、かりにあれほど黒い目をしていなかったらーその黒い目はその少女に最初に会ってじつに強く印象に残ることであるー、少女のとりわけ青い目に現にそうなったほど恋こがれることはなかっただろう。
----(岩波文庫、pp.308-309)----

最近、所沢航空記念公園に散歩に行くのだけれど、公園は50haもありとても広く、木々が生い茂っている場所もあって、とても気持ちがいい。それで、今日はこういう新緑や花々を表した小説にしたいなと思ったのだけれど、近年そういうみずみずしい小説の記憶がない。そういえばずっと前に読んだ『失われた時を求めて』に豊かな庭園の記述があった気がすると思い、探した。
『失われた時を求めて』は岩波文庫の吉川一義訳で読んでいて、6巻くらいで翻訳に追いついてしまい、待っているうちに忘れてしまってそのままになっている。そして結構昔のせいか、ほとんど筋は忘れてしまった。読んでいるときはとても楽しかった記憶がある。それでもイメージ的な小説だけあって、庭のイメージは残っていたみたい。ちょっとめくったら、やっぱり面白そう。いつか、14巻をひたすら読む旅行とかしてみたい。あと光文社の高遠弘美さんの訳も読んでみたい。
プルースト、結構意識や知覚の話をしていて、その点からもいま読むと面白いな。


失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)

失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/11/17
  • メディア: 文庫



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