SSブログ

九日目 小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』 [読書記録・日記]

九日目は小川洋子の『猫を抱いて象と泳ぐ』

----(引用)----
マスターは猫背気味に背を縮め、身体中の余った脂肪を揺らしながら手際よくフォークと紙ナプキンを並べ、おやつに負けないくらい甘い飲み物を用意した。そして少年の十倍の量を食べつくしてようやく満足し、「さてと......」と言って両手を擦り合わせた。この瞬間に見せるマスターの表情が、少年は一番好きだった。でっぷりとした掌がすりすりと気持ちのよい音を立て、口の周りにはお菓子のかけらがくっついている。バスの中は光にあふれ、庭は静けさに包まれている。さあ、何の心配もいらない、思い切りチェスをやろうじゃないか、と微笑みの中から呼び掛けてくるような、そんな表情だった。
----(文藝春秋、p.51)----

この本は、チェスのプレイヤーの話なのだけれど、残念ながら私は全然チェスを知らない。なので、もしかしたら本の一部しかわかっていないのかなと思う。それでも心動かされる本だった。チェス、やってみようかなと何回か思い、子供の頃にルールだけ教えてもらったきりになっている。
このシーンは、主人公がチェスを(元)バスの中で習うシーン。自家製のおやつや光の描写が幸せそう。

----(引用)----
ミイラは自分など何の役にも立たないのだが、という遠慮がちな手つきで、肘、膝、腰、肩、踝、顎、指、ありとあらゆる身体中の関節を撫でていった。彼女のしなやかな掌は、どんな形の関節にもぴったりと寄り添い、その隅々にまで指を這わせることができた。ああ、自分の身体にはこんなところにも関節があったのか、と彼は目を閉じたまま思った。
----(同書、p.162)----

小川洋子の登場人物はみんなどこか“ふつう”ではないことが多い。けれど、昨日の川上弘美とは、私のなかでは印象がかなり違っていて、川上弘美の方がなまなましい感じ、小川洋子の方が線が細い感じがする。また、小川洋子の方が、なんていうか、本の中でまとまっているようなイメージがある。掌に乗せて慈しむような。


猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)

猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/07/08
  • メディア: 文庫



nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。