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二日目 谷崎潤一郎『細雪』 [読書記録・日記]

二日目は谷崎潤一郎『細雪』。
本当はマックス・エルンストの『百頭女』にしようと思ったのだけど、本が見つからない...どこに行ったのかしら百頭女...この本は引っ越しのときに売ってないと思うんだけど。
引用で、長いダッシュと三点リーダーがうまくでないのでご容赦ください。

-----(引用)-----
「こいさん、頼むわ。ーーー」
鏡の中で、廊下からうしろへ這入って来た妙子を見ると、自分で襟を塗りかけていた刷毛を渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見据えながら、
「雪子ちゃん下で何してる」
と、幸子はきいた。
--------(新潮文庫上巻、p.5)--------

細雪はこの文章で始まる。私の場合、ときどき最初の数文を読んだだけで惹きつけられる小説があるけれど、細雪はその一つだった。登場人物が生き生きとし、かつとても上品で、その姿勢も文章も美しい。私は細雪を読んで着物を勉強したくなった(挫折したけど...着物はお金を使って着てなれないと理解できなそう)。

あとすぐに思い出すのは、有名な蛍狩りのシーン。

-----(引用)-----
それでも家を出た時分には人顔がぼんやり見分けられる程度であったが、蛍が出ると云う小川のほとりへ行き着いた頃から急激に夜が落ちて来て、......小川と云っても、畑の中にある溝の少し大きいくらいな平凡な川がひとすじ流れ、両岸には一面に芒のような草が長く生い茂っているのが、水が見えないくらい川面に覆いかぶさっていて、最初は一丁程先に土橋のあるのだけが分かっていたが、......蛍と云うものは人声や光るものを嫌うと云うことで、遠くから懐中電燈を照らさぬようにし、話声も立てぬようにして近づいたのであったが、直ぐ川のほとりへ来てもそれらしいものが見えないので、今日は出ないのでしょうかとひそひそ声で囁くと、いいえ、沢山出ています、此方へいらっしゃいと云われて、ずっと川の縁の叢の中へ這入り込んで見ると、ちょうどあたりが僅かに残る明るさから刻々と墨一色の暗さに移る微妙な時に、両岸の叢からすいすいと、すすきと同じような低い弧を描きつつ真ん中の川に向かって飛ぶのが見えた。...それが今迄見えなかったのは、草が丈高く伸びていたのと、その間から飛び立つ蛍が、上の方へ舞い上がらずに、水を慕って低く揺曳するせいであった。......が、その、真の闇になる寸刻前、落ち凹んだ川面から濃い暗闇が這い上がって来つつありながら、まだもやもやと近くの草の揺れ動くけはいが視覚に感じられる時に、遠く、遠く、川のつづく限り、幾筋とない線を引いて両側から入り乱れつつ点滅していた、幽鬼めいた蛍の火は、今も夢の中にまで尾を曳いているようで、眼をつぶってもありありと見える。
--------(新潮文庫下巻、pp.34-35)--------

長い引用になったが、その理由は、引用の一文目が長いからだ。文庫本の一ページ分近く一文が続いている。蛍が見えない間の描写が、まるでずっと蛍を探して静かに川岸を歩くように続く。そしてふっと視線が蛍の火を捉えて、その明滅に合わせたように、一文が短くなる。
文を写すとわかるのだけれど、絶妙に漢字とひらがなが使われている。ただ、書いて分かったのだが、やはりこの文章には縦書きがいいな。上から下に流れるように読む方が、この文章は合う気がする。あと、なんていうか、もっといい箇所があった気がする。

谷崎は卍で挫折してしまって、たくさんは読んでいない。でも本当にうまくて、書き写すために久しぶりに開いたらまた細雪を読み返したくなった。
この他には春琴抄が記憶にあるけれど、あれは細雪よりは学生には薦めづらいな...あれでびっくりしたポイントの一つは、え...子供できてるの...というかいっぱいいる...ということでした。

(追記:細雪は青空文庫で無料で読めます。無料のKindle版のリンクも貼っておきます)


細雪(上) (新潮文庫)

細雪(上) (新潮文庫)

  • 作者: 潤一郎, 谷崎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫




細雪(中) (新潮文庫)

細雪(中) (新潮文庫)

  • 作者: 潤一郎, 谷崎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫




細雪 (下) (新潮文庫)

細雪 (下) (新潮文庫)

  • 作者: 潤一郎, 谷崎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫




百頭女 (河出文庫)

百頭女 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 1996/03/04
  • メディア: 文庫




春琴抄 (新潮文庫)

春琴抄 (新潮文庫)

  • 作者: 潤一郎, 谷崎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫




細雪 01 上巻

細雪 01 上巻

  • 作者: 谷崎 潤一郎
  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2016/08/25
  • メディア: Kindle版



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