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十三日目 京極夏彦『ヒトごろし』 [読書記録・日記]

十三日目は京極夏彦『ヒトごろし』。今日は午後から雨だったので、泉鏡花もいいかなと思ったけれど。

----(引用)----
「そうさ。勝ったとか負けたとか勝ち負けで世の中測る奴ァ、本気の本気で愚か者だぜ。勝負ごとってな遊びなんだよ、遊び。しかも賢くねえ遊びだぜ。そんなもん物差しにして天下を測られちゃどうにもならねえだろう。俺はな、親父と同じで博打は嫌えだ。博打ってな、考えるもなく胴元が儲かる仕組みだぜ。てめえも博打はしねえ性質だろ」
 しねえよと答えた。
「誰が勝とうが負けようが、それで良くなるならいいんだよ、世の中はな。そうだろ。それを勝つの負けるのとー」
 あの莫迦どもがと吐き捨てるように言い、勝は眉根を寄せる。
「沽券だが忠義だが知らねえが、連中はまったく先が読めてねえ。あんなのが幅を利かせていたのじゃあ、天下ァ傾く。徳川も国も滅ぶ。いいか、勝つも負けるも大差はねえ。勝ち負けを操れる者が一番強え。そういう性質を持った者こそが政をするべきなんだ。偉えのじゃねえ。それが、そういう性質の者の、役目なんだよ」
(中略)
「勝とうが負けようが違いはねえということに気付かねえ莫迦は、死ぬんだよ土方。勝つために殺そうとするし、負けたくねえから殺すじゃねえか。生き死にと勝ち負けは関係ねえんだよ。それは」
 絶対に関係ねえと勝は厳しい口調で言った。
「そんなくだらねえことで殺されたんじゃ浮かばれねえよ。意地張るなら生きるために張れってんだよ。どうだ」
----(pp.968--970、新潮社)

京極夏彦は中学の頃に百鬼夜行シリーズを好きになってたくさん読んだ。通学の鞄がとても重かった。
この『ヒトごろし』は2018年に出た比較的最近の本。新撰組は、多くのメディアではかっこよく表現されることが多いけれど、この本では人殺し集団として書かれている。上のシーンは主人公の土方歳三と勝海舟が話すシーン。
私は昔から勝ち組負け組というのが嫌いで、だいたいそのフレームで語る人も好きになれない。
次は終盤で、ネタバレもあるので、注意。

----(引用)-----
「そうだよ。妾は生きたくなったんだ。土方歳三、あんたと生きたくなったのサ。悪いかい。何だい、人殺しに惚れちゃいけないとでもいうのかサ。そんなことはどうでもいいんだ。格好つけないでお呉れよ。あんたのことだ、妾の気持ちなんざ、疾うの昔に察していたんじゃあないのかい」
----(p.1074、同)----

土方はこの涼を殺すために最後の40ページくらい駆け抜けて殺しに殺してここに来るんだけれど、涼は生きたいという。けれど土方は殺したい人なので...というあたりで終盤なのだけれど、この最後の40ページはずっと泣ける感じだった。40ページって結構あるかと思いきや元の作品は1100ページあるので、あっという間。


ヒトごろし

ヒトごろし

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/01/31
  • メディア: 単行本



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