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二十三日目 テッド・チャン『あなたの人生の物語』 [読書記録・日記]

二十三日目はテッド・チャンの『あなたの人生の物語』。

----(引用)----
このお話の結末がどんなふうになるかはわかってる。そのことはよくよく考えてるから。ほんの数年まえであるにすぎない、そのことの始まり、つまり軌道に船の群れが出現し、あちこちの草原におかしな人工物が出現したときのことも、よくよく考えてるし。
----(p.177、早川書房)----

短編小説。宇宙人とのファーストコンタクトもので、言語学者の主人公が、地球に来た宇宙人とコンタクトして彼らの言語を理解しようとする。言語は、その生物の思考の方式を反映していて、言語がわかってくると、彼らの“思考方式”が主人公にもわかってくる。人間は因果的に、彼らは目的的に物事を捉えている。物語では、その違いが物理法則の捉えかたから明らかになる。
そして、彼らの方式で読むと、上の文章(小説が始まったばかりの3ページ目の文章)の意味は、全く変わってしまう。どことなく訳がおかしい理由も。気づいたときに、主人公の子供の話が全然変わって感じられる。彼女の悲しみも愛も。
次の引用は作品の最後の部分。ここだけ読んでもネタバレにはならないけれど、一応注意。
なお、この小説はポスターが柿の種だと有名になった『メッセージ』として映画化されている。映画は(個人的には)全然違うものに感じられた。ただ、ところどころに入れられた子供の映像の意味に気づくときにどきっとさせられるのはよかったし、映像(宇宙人の文字とか宇宙人とか)はとてもよかった。

----(引用)----
 そもそものはじめから、わたしは自分の運命を知っていたし、当然のものとしてそのルートを選びもした。けれど、わたしがめざしているのは歓喜の極致なのか、それとも苦痛の極致なのか?わたしは最小と最大のどちらを成就するのだろうか?
 それらの疑問が浮かぶのは、あなたのおとうさんがこうたずねてくるとき。
「こどもはつくりたいかい?」
 で、わたしはほほえんで、こう答える。
「ええ」
 そして、わたしは身にまわされていた彼の両腕をほどき、わたしたちは手をつないで家のなかにはいって、愛を交わし、あなたをつくるの。
----(pp.277-278)----

----(英語の原文)----
From the beginning I knew my destination, and I chose my route accordingly. But am I working toward an extreme of joy, or of pain? Will I achieve a minimum, or a maximum?
These questions are in my mind when your father asks me, "Do you want to make a baby?" And I smile and answer, "Yes", and I unwrap his arms from around me, and we hold hands as we walk inside to make love, to make you.
----("Stories of Your Life and Others"より"Stories of Your Life". Kindle版なのでページ数は不明)----

(英語の原文的にも、意味的にも、歓喜の極値と苦痛の極値でも良い気もしたり。)


あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/09/30
  • メディア: 文庫




Stories of Your Life and Others

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  • 作者: Chiang, Ted
  • 出版社/メーカー: Picador
  • 発売日: 2015/05/21
  • メディア: ペーパーバック



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