SSブログ

二十九日目 中井秀夫『虚無への供物』 [読書記録・日記]

『ドグラ・マグラ』に引き続き、二十九日目は中井秀夫『虚無への供物』。

---(引用)----
「あたしの考えてるのは、こういうことよ。そりゃ昔の小説の名探偵ならね、犯人が好きなだけ殺人をしてしまってから、やおら神の如き名推理を働かすのが常道でしょうけれど、それはもう二十年も前のモードよ。あたしぐらいに良心的な探偵は、とても殺人まで待ってられないの。事件の起る前に関係者の状況と心理とをきき集めて、放っておけばこれこれの殺人が行われる筈だったという、未来の犯人と被害者と、その方法と動機まで詳しく指摘しちゃおうという試み......。“白の女王”のいいぐさじゃないけど、それで犯人が罪を犯さないならなおのこと結構だろうじゃありませんか。むつかしい仕事ですけど、氷沼家をとっこに、それをやってみせようというわけ。登場人物は少ないんだから、なんとか出来る筈よ。さあ、見てきただけのことを話してちょうだい」
----(p.41、講談社文庫)----

『ドグラ・マグラ』と『黒死館殺人事件』と共に日本探偵小説の三大奇書とよばれるらしい。
たしか、高校生くらいのときに読んで、面白かったけれど、やはり内容はほぼ忘れてしまった。疑われれる人など部分的なことと、雰囲気を覚えていた。今回改めてめくってみると、これは高校生ではわからないのではないか、という気がする。高校生の時は高校生の時で、面白かったのだろうけれど。セリフもすごくお洒落だ。もう一回、ゆっくり読みたい。
しかし、もうすぐこの文章紹介も一ヶ月になるけれど、本をめくるたびに、改めてゆっくり読みたくなる。次の一ヶ月はそういう月にしようか。休日に『虚無への供物』を色々忘れて一日中読んでいたい。つい、月曜日が講義だということもあるし、研究もやりたいことが多いし、何かしてしまうのだけれど。
そして、この本の装丁は、私は新装版よりも、1974年版の方がずっと好きだ。この表紙とセットで、この本を覚えているからかもしれない。そういう本は多い。書籍のイメージと表紙の色とかが絡みあったり。kindleではそういうのもなくなってしまうので、個人的にはまだ紙の方がずっと好きだ。もちろん、羊皮紙とかと比べたことはないのだけれど。
私が栞を挟んでいたページは、大鴉の引用の部分だった。そうか、日夏耿之介の訳が良いのか。高校生のときの私もこの詩が好きだったのだろうか。それとも、もしかして、実はもっとあと、大学くらいに読んだのか。大鴉のnevermoreを「またとなけめ」って訳すのはいいな。確かに、この人の本を、買おうか迷った気がする。どうしたんだろうか、よく思い出せない。記憶というのは結構消えていく。


虚無への供物 (講談社文庫)

虚無への供物 (講談社文庫)

  • 作者: 中井 英夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/05/13
  • メディア: 文庫



nice!(0)  コメント(0)